本当は好きな人の顔だって見られない程臆病

中3のいつだったか、弟がイナズマイレブンの動画を見ていた。19話。その頃はイナズマイレブンなんてよく知らなくて、腐女子に人気のあるコンテンツだから怖いなとか思っていたけど、あるキャラクターから発せられる声に覚えがあった。誰だっけ、この声好きなんだよなあとぼんやり思った。そして、高校に入ってから段々とその人のことを調べるようになって、その人が出ている雑誌を買ったり歌っている曲をiTunesでダウンロードしたりして、いつの間にかファンになっていた。自分が聞いたことのある彼の出演作品をメモ帳に書き連ねていた事もある。僕は彼の中性的な少年声が好きだったけれど、僕が追いかけるようになった頃にはそんな役は数える程しかやっていなくて落ち着いた青年声の役ばかりやっていたのが少し嫌だった。この人の真髄は少年声の方なのに、何故青年声ばかり出しているのか分からなかった。
ラジオを聴くと、少し根暗なところがあるけど、普通の男性だった。好きだったからその頃は毎回聴いていたけど、今聴いたら彼の真っ直ぐな性格に耐え切れないだろうと思う。きっと家族にも友人にも恋人にも恵まれて、人並みに普通の人生を歩んできた人間。生きていくのが当たり前で、死にたいなんて考えもしないような口調とか言葉選びとか全部、僕とは正反対だ。彼には特別趣味も無いようだった。趣味が多い人の趣味の話が好きな僕にとって、彼が話す話題は、あまり話さないクラスメイトとするLINEのように空っぽだった。続きも気にならないしずっと聞いていたい話でもない。でも声が良かった。僕は彼の言葉では無く、声が聞きたいからラジオを聴いていた。
彼の30歳の誕生日に合わせて発売される写真集のサンプル画像が格好良すぎてこのままでは顔を合わせたこともない遠くの人間に恋をしてしまうと思ってファンを辞めたけれど、人気声優だからどうしたって声は聴く。声は好きだから、それ以上は認識しないようにアニメを選んで見た。今年の2月、彼が声を当てているキャラクターを馬鹿みたいに何枚も描いていたらまた好きになっていた。男性声優ファンの女が嫌いだから同担拒否なのは変わらない。彼や彼が声を当てているキャラクターが毎日夢に出た。他にすることが無いからずっとその人のことを考えていた。Twitterアカウントもフォローし直した。30歳を越えて前髪を下ろすようになった彼は僕好みだった。同じ頃、人形みたいなルックスで死についてツイートしまくっているアイドルを見つけてのめり込んでしまった。その子を見ている方が居心地が良かった。根暗で、陰キャラで、性格の悪い女の子を好きになる方が僕にはお似合いだと思う。長く好きで居続けられる。釣り合っている。人生の成功者で人気者の声優の彼を見続けていると、自分のこれまでの人生、今の生活、性格、全部惨めに思える。彼は僕には眩しすぎる。人生で一度くらい会話してみたかったけど、こんな障害者のニート(中卒)と話なんかしたくないだろうと思う。彼は普通すぎる。普通だから普通以外のものを突っぱねる行為をする。それが仕事だとしても、僕が彼にコンタクトを取らないと決める理由には十分だった。彼を傷つけたくなかった。名前も知らない少女に不快感を煽られる姿を見たくなかった。
長い睫毛や大きい瞳、男性らしい骨ばった手が美しくて好きでした。何より声が好きでした。中性的な少年声も、低めの青年声も、魅力的で息遣いひとつが愛おしかった。演技オタクなのも、隠れ根暗なのも好きでした。前髪は真ん中で分けるよりも下ろした方が似合っていると思います。でも、貴方は何もかもが僕と正反対で、眩しすぎるし、いつか話が出来たらって何度も夢に見たけれど、きっと僕は貴方に軽蔑されてしまうだろうし不快感を煽るだろうから、僕の為に一瞬でも傷ついて欲しくない。

だから今日僕は、梶裕貴のファンを辞めた。